こんにちはk-hippoです。
一般的に回復期リハビリテーション病棟に入院されてくる対象者の方々は「脳血管疾患」「大腿骨頚部骨折た切断などの整形外科疾患」「脊髄損傷」「様々な現疾患由来の廃用症候群」などです。
本日のテーマである「循環器」については、その部分の疾患がメインで入院されることはほぼありませんが、合併症や既往症などで複合的に観なければならないことが少なくありません。回復期リハ病棟に入院するという時点で、ある程度病態は安定化されていますが、臨床でよくみる疾患や注意点などを取り上げたいと思います。
今回の記事で回復期リハ病棟で作業療法を行う上で、最低ラインの「循環器」に対する総論的な知識をつけることができると思います。
*リハ専門職の方々へ:Webサイトで見つけた知識などは信頼性や妥当性の観点から引用文献などにはできません。本記事では参考にした書籍はサイト下部、引用した論文は全てリンク作成するか、論文名を挙げていきます。そちらの原著を見ていただければ十分に役に立つと思います。
循環器について
循環器系は、血液を全身に送る仕組みです。「心臓」がポンプの役割を行い、そこから「血管」という道を通って全身に血液が送られます。このどこかに病変があることで循環器疾患になります。疫学的には女性よりも男性の方が心疾患での死亡リスクが2倍程度高いと言われています。
循環器疾患の危険因子は3つあります
- 高血圧
- 高コレステロール血症
- 喫煙
が挙げられます。
高血圧については、高血圧の基準である血圧140/90mmHgを上回るとリスクは向上します。血圧と心疾患の発症リスクには正の相関関係がみられ、心疾患においては男性では10mmHg上昇すると、冠動脈疾患罹患・死亡率が15%も上がるとされています。
血圧と脳卒中については近年の報告で、140/90mmHg以下の人の方が罹患率が多かったというような研究もあります。しかし、総合的に観て、高いよりも低い方がよいと思われるため、できれば110〜130/60〜80mmHgを目安にコントロールできると良いでしょう。
高コレステロールについては、脳梗塞のリスクをあげるという報告が多い中が、総コレステロール、LDLが低すぎると脳出血リスクが高まるという研究報告も散見される。【LDLが低いと脳出血リスクが増大??(女性対象の研究)】【コレステロールの最適値は!?】コレステロール値には適正値がある可能性もあり、後者の研究では総コレステロール値が200ml/dlの時が最もリスクが低かったという結果となっている。
喫煙については、近年の研究では禁煙をすることによる脳卒中や冠動脈疾患など再発率低下や生存期間延長につながるという報告もあります。喫煙に関しては、吸った方がよくなった??みたいな研究はありませんので、これはやめる一択ですねwww
心臓リハビリテーションガイドライン

心疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインというものがあります。これは2012年のものなのでそろそろ新しいものが発表されるかもしれませんが、2017年に心不全の心臓リハビリテーション標準プログラムというものが発表されていますので、こちらを参考にされても良いかもしれません。
どちらもフリーアクセスでPDFがダウンロードできます。
診療ガイドラインの活用については【新人OT必見!】作業療法プログラムの選択方法〜診療ガイドラインを用いて〜を参考にして頂けたらと思います。
評価のポイント
客観的なものとしては対象者の外見から判断できるもの(冷や汗、顔色、表情など)、X線検査、心エコー、血液検査、バイタルサイン、心電図などとなります。
本人の主観的なものでは疲労感、胸痛、胸苦などが挙げられます。また、主観的なものからNYHA、Hugh-Jones分類などを評価していきます。
本記事ではセラピストが行える評価をメインに取り上げていきます。
胸痛、胸部不快感:この症状で緊急を要するのは大動脈解離、急性心筋梗塞と肺塞栓症です。強い胸痛や圧迫感が30分以上続くようだったら早急に救急搬送してください。病棟であれば緊急コールを押しましょう。15分以内で治る場合には緊急性は高くないですが、それでもすぐに診察依頼を行い、運動負荷の再検討を行うことをお勧めします。
問診のポイント(OPQRST)
- Onset 発生:急激か、緩徐か、労作との関係はあるか
- Provocation/Palliation 増悪緩和:症状を軽減、または悪化させる要因は(安静、圧迫、体位、呼吸など)
- Quality 性質:どのような痛みか?(圧迫感、鋭い痛み、圧痛)
- Region/Radiation 部位や放散痛:痛む場所はどこか?上肢、顎などに放散痛、痛みは移動しているか
- Severity 程度:10段階でどの程度痛いか
- Time 時間:持続時間、変化、過去に生じたことがあるか
以上を問診し、評価を行います。看護師やDrに詳しい状況報告ができますし、運動負荷を設定する際にも本人の主観的訴えというのは重要性の高い評価と言えます。在宅場面で遭遇した時には、このような症状があったことをかかりつけ医に報告してもらったり、ケアマネに連絡しておくことで、未然に大きな疾患を防ぐことにもつながります。
動悸:通常の鼓動とは違う感じがするといった症状です。感じ方には個人差があります。
動悸をきたす主な疾患(循環器系のみ抜粋)
- 不整脈(頻脈):発作性上室性頻拍、心房細動(AF)、心房細動(AFL)、持続性心室性頻拍
- 不整脈(徐脈):房室ブロック、洞機能不全症候群(SSS)
- 不整脈(不定):期外収縮
- 非不整脈:心不全
上記のものは循環器系に限っていますが、動悸は感染症や妊婦、過労や睡眠不足などでも生じますし、我々も普通に高負荷の運動をすれば生じます。どのようにして生じているのか?常に生じているのか?などを観察のポイントにしましょう。
評価としては抹消動脈の触診を同時に行い、不整脈を触知できるかどうかを観察しましょう。橈骨動脈、頸動脈、後脛骨動脈、膝窩動脈などが中心ですかね。
頻脈は100回/min以上、徐脈は60回/min以下が目安です。
脈拍数、リズム、強さなどを触知します。また、左右差などにも注意しましょう。
脈拍に関しては降圧剤としてα・β受容体ブロッカー系の投薬がされている場合、脈拍が上がりにくい場合があります。そういう場合には脈が上がってないからといって運動負荷量を上げていいわけではないので、事前に服薬状況を確認しておきましょう。
呼吸困難、息切れ:通常の呼吸運動をおこなうのに不快感や困難感を自覚した状態である。
呼吸困難の多くは呼吸器疾患に起因します。しかし、循環器疾患からも生じることがあり、主には心不全による肺うっ血が原因ということが考えられます。肺うっ血とは左心不全により、肺静脈から送られてくる血液を十分に処理できなくなり、肺に血液が貯留してしまう状態です。
呼吸困難をきたす主な疾患(循環器系のみ抜粋)
- 肺うっ血(左心不全、弁膜疾患、先天性心疾患)
他には呼吸器系の疾患が多く、COPDや肺炎、肺がん、上気道閉塞などが挙げられます。
NYHA心機能分類
- Ⅰ度:心疾患ではあるが、日常の活動で疲れ、動悸、呼吸困難、または狭心発作を起こさない
- Ⅱ度:安静時は無症状だが、日常の活動で疲れ、動悸、呼吸困難、または狭心発作を起こす
- Ⅲ度:安静時は無症状だが、軽度の日常の活動で疲れ、動悸、呼吸困難、または狭心発作を起こす
- Ⅳ度:安静時にも心不全または狭心症状があり、軽度の活動で症状が悪化する
Hugh-Jones(ヒュージョーンズ)分類
- Ⅰ度:同年代の健常者と同様の生活、仕事ができ、階段も健常者並みに上がれる
- Ⅱ度:歩行は同年代の健常者なみにできるが、階段の上り下りは健常者並みにできない
- Ⅲ度:健常者並みに歩けないが、自分のペースで1.6km程度の歩行が可能
- Ⅳ度:休みながらでなければ50m以上の歩行が不可能
- Ⅴ度:会話や着物の脱着で息が切れ、外出ができない
息切れの目安はこの2つの分類を用いて評価し、徐々に歩行距離や活動量を増やしつつ、日常生活動作の幅を広げていければ良いかと思います。
浮腫:細胞間液(間質液)の以上な貯留で起こるむくみのこと
心疾患で浮腫をきたす場合には心不全という場合が多いです。浮腫は全身性と局所性とあり、心不全の場合には全身性浮腫となりやすいです。
全身性浮腫は左右対称に出現します。病初期には顔面や下肢に部分的に見られます。重力の影響で歩行可能な方は下肢に、臥床している方は後頭部や背部に見られます。
評価としては視診と圧痕の有無を調べます。皮下に骨がある部分を10秒以上圧迫し、表面が窪んでしばらく元に戻らない状態であれば浮腫を考えます。
重度な浮腫でなければ作業療法を行うのに大きく制限があるわけではないですが、下肢に浮腫が強いと靴の脱着が行いにくかったり、麻痺手などに浮腫があり、可動域制限ができやすかったりします。
チアノーゼ:血液中の還元型ヘモグロビン(酸素を放出した状態)の濃度があがり、皮膚および粘膜が紫色に見える状態になること
口腔粘膜や眼球粘膜(中心性チアノーゼ)、指先や耳、鼻の頭や頬部など(末梢性チアノーゼ)が紫色に変化します。
心拍出量の低下で起こるのは抹消性チアノーゼであり、抹消組織の血流量が低下し、末梢組織毛細血管の酸素濃度が低下して生じます。
もともと貧血の場合にはチアノーゼが生じにくいので観察の時には注意が必要です。
ショック:重要臓器の血流が維持できなくなり、細胞の代謝異常や臓器障害が起こり、生命の危機に至る急性の症候群
主要な症状は5大症状(ショックの5P)
- Pallor 顔面蒼白
- Perspiration 冷や汗
- Prostration 虚脱
- Pulselessness 脈拍触知不可
- Pulmonary insufficiency 呼吸不全
これを覚えておきましょう。また、日本救急医学会ではショックの診断基準を以下のようにしています。
①血圧低下 どれかに該当する
- 収縮期血圧90mmHg以下
- 平時の血圧150mmHg以上の場合、平時より60mmHg以上の下降
- 平時の血圧110mmHg以下の場合、平時より20mmHg以上の下降
これに加え ②以下の6項目のうち3つ以上に該当する
- 心拍数100回/min以上
- 微弱な脈拍
- 爪床毛細血管のrefilling遷延(爪圧迫解除後2秒以上赤みが戻らない)
- 意識障害(JCS2桁以上またはGCS10点以下)または不穏、興奮状態
- 乏尿、無尿(0.5ml/h以下)
- 皮膚蒼白と冷や汗、または39℃以上の発熱(感染性ショックの場合)
これらで判断し、該当の場合にはショック状態と判断できるようです。
とにかくおかしいと思ったら、自分だけでどうにかしようとせずにスタッフを呼んでください。在宅場面で遭遇した場合にはすぐに救急要請を行いましょう。
終わりに
本記事では循環器疾患の疫学的なことと、ガイドラインの紹介、臨床場面でみる可能性のある主症状と簡単な対策について書いてきました。
作業療法を行う上で、日常生活動作や趣味によって、対象者が想像以上に体を動かし、心臓の働きが大きく必要になることが多々あります。
心疾患を抱えている方にとっては好きなことをやることがリスクにつながるということもありますので、その活動がどの程度であれば安全なのか?その活動をするにはどうやって作業療法を展開して負荷量を漸増させていけばいいのか?を本日紹介した症状をモニタリングしながら調整していきましょう。
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