こんにちは〜ヒポ太郎です
今回は『心不全についての知識と心不全のリハビリテーション』について解説していきます
高齢化社会である昨今、複数疾患を抱えた対象者の方は少なくありません
私が従事している回復期リハビリテーション病棟でも、脳血管疾患や大腿骨頚部骨折などの整形外科疾患に加えて、心不全の既往を持っていたり、心不全急性増悪と同時併発的に脳出血などを起こした方なども入院されたりします
今回の記事では以下のような悩みを抱えた方におすすめです
どうしても循環器のことって難しく感じるのよね・・・。心不全の方って多いし、勉強しておかないといけないのはわかるんだけど・・・。
- まず心不全の基礎的な知識を知りたい
- リハビリテーションに心不全の知識を使いたい
- リハビリをする時の注意点を知っておきたい
総論的な記事ですが、回復期リハでの循環器についてはこちら → 【新人OT必須!】回復期リハビリの作業療法で知っておきたい循環器のこと
*リハ専門職、リハ学生へ:本サイトでは参考論文や参考図書についてはすべてリンクを提示しています。インターネット情報引用というのは事例報告や論文にはなかなか使えないので、貼り付けるリンク先から書物、論文を入手して原著を読んでいただければ、お役に立つと思います
心不全とは?
心不全とは心臓の器質的あるいは機能的障害により、心臓のポンプ機能が低下し、心拍出量の低下や抹消循環不全(主要臓器の酸素需要量を満たせない)、肺や体静脈系のうっ血をきたす病態である。うっ血による症状が主体となることが多く、うっ血性心不全とも呼ばれる。
病気が見える「循環器」から引用
心不全を生じる原因疾患には様々なものがありますが、虚血性心疾患、高血圧、弁膜症、心筋症などが多いです
要するに心臓の器質的な問題もしくは機能低下によるものの総称を『心不全』といいます
左心不全と右心不全
心臓の構造と血液の流れは、この図のようになっています
心不全は左心系と右心系のどちらが問題となるかにより症状や対処なども異なります
通常は左心不全の方が多くみられますが、実際には右心不全も併発した両心不全であることも少なくありません
左心不全状態

まず、左心室の機能低下により、全身に血が送れない状態になります。左心室から血がでないため、その手前の左心房から左心室へはさらに血が送れない状態になります。行き場を失った血液は肺に貯留するしかなくなります → 肺うっ血・肺水腫
右心不全状態

右心室から肺へ静脈血を送る機能が低下します。すると右心房に静脈血が滞ってしまいます。右心房に帰ってこれない体の静脈血は、体の中に貯留せざるを得ません → 浮腫・肝腫大
両心不全がおこる状態

左心不全を発症後に、肺動脈内に血液が滞ります、すると肺血管が高血圧状態になり、結果右心不全をまねいてしますという流れですね!
では続いて以下に原疾患となる疾患と左右での症状の違いなどをあげていきます!
心不全の原疾患
心不全を引き起こす元となる疾患は左心不全と右心不全で以下のようにことなります(ナースが知っておく循環器これだけガイドより)
左心不全
- 虚血性心疾患(急性心筋梗塞や重症狭心症発作)
- 弁膜症(大動脈弁の狭窄症、閉鎖不全症など)
- 不整脈(心室頻拍に代表される頻脈性不整脈、洞不全症候群や房室ブロックのような徐脈性不整脈、心房細動は徐脈でも頻脈でも起こりやすい)
- 心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症、二次生心筋症など)
- 急性心筋炎(急激な心機能低下により)
- 高血圧(急激な後負荷増大により)
- 先天性心疾患
- 代謝性疾患(甲状腺機能亢進症など)
- 貧血
右心不全
- 虚血性心疾患(右室梗塞が代表)
- 弁膜症(三尖弁や肺動脈弁の狭窄症、閉鎖不全症など)
- 心筋症(拘束型心筋症、不整脈原性右室心筋症など)
- 慢性心筋炎(とくに右室に炎症が及んでいる場合)
- 先天性心疾患(心室中隔欠損や心房中隔欠損)
- 慢性閉塞性肺疾患に伴う肺性心
- 肺動脈性肺高血圧や慢性肺血栓性肺高血圧など
- 急性肺血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)
- 慢性収縮性心膜炎(心外膜が硬くなることで十分な拡張困難)
- 心タンポナーデ(炎症性、膿性、血性心嚢液などが貯留)
左心不全では後負荷が高まる病態の疾患で、右心不全では前負荷が高まる病態の疾患で生じやすいといえます
心不全の症状
左心不全と右心不全では症状に違いがあります
見ていただいてわかる通り、うっ血に伴う症状と、低心拍出に伴う症状とに分けられます。
左心系が機能低下に陥れば、全身への拍出が低下して、肺へのうっ血による症状が出現します
右心系が機能低下に陥れば、肺への血液を送り出すことができないため、全身の静脈血がうっ滞し症状が生じます
X線画像
胸部X線画像の読影についてですが
- 心不全では心拡大(心胸郭比〔CTR〕の増大)と肺のうっ血の所見がみられる
- 肺のうっ血の所見は、その程度により、肺水腫や胸水をきたした様々な所見がみられる
以下の図のような特徴が出ます。

- 上肺野血管陰影の増強:上肺野の血管影が下肺野よりも太くなる
- 気管支周囲の肥厚:間質性肺水腫による所見の1つ
- 胸水の貯留:C-P angle(肺の下端のとんがり)の鈍化が見られる
- カーリーline:肺小葉間隔壁の浮腫による肥厚が線状陰影として見られるものがあり、A〜Cまで存在します。
などがが見られます
左心不全のX線画像

右心不全のX線画像

心不全で見ておくべき検査値
血液生化学検査における心不全マーカーとして
ナトリウム利尿ペプチド(BNP:脳性ナトリウム利尿ペプチド、ANP:心房性ナトリウム利尿ペプチド)
があります。心臓が分泌する循環調整ホルモンですね
ホルモンの役割としてはナトリウム利尿、血管拡張作用、交感神経系抑制、RA(レニン–アンギオテンシン)系抑制などの心血管保護作用があります
心房・心室に対する負荷に応じて、血中濃度が上昇するため、心不全の病態把握に有効なんです
心不全の重症度に応じて上昇し、治療により低下するため、診断および重症度判断、治療効果の評価に用いられます
BNP(基準値18.4pg/ml以下) | ANP |
・ANPより鋭敏な心不全マーカーである ・ANPが上昇しない急性心不全時にも上昇する ・収縮障害だけでなく、拡張障害でも上昇する | ・体液量(循環血液量)のモニター として有用である。(腎不全などでも測定される) ・心不全治療薬としても使用されている。 |
BNP400pg/ml以上では心不全の可能性が非常に高い状態ですが、拘縮予防や体位変換などで2次的な障害の予防は行いましょう
400pg/ml以上であったとしても、前回検査よりも低下していた場合には身体所見で心不全の改善を示している場合には、バイタル変動に注意しながら離床を行い、低負荷のレジスタンストレーニングや歩行などの運動を行なってもOK(主治医と相談し、必ず指示の元)
心不全のリハビリテーション
ここからは心不全の対象者に対してのリハビリテーションに触れていきます。
*必ず主治医からの指示を遵守し、リハビリテーション内容については主治医と相談しながら行ってください

日本心臓リハビリテーション学会:心不全の心臓リハビリテーション標準プログラムより転載
上図1では心不全の病期と各病期に行う心臓リハビリテーションの内容を示しています。
急性期の心不全リハビリテーション

日本心臓リハビリテーション学会:心不全の心臓リハビリテーション標準プログラムより転載
心不全急性期は急性期治療を並行し、離床プログラムを進めていきます。上図2は急性期での離床プログラム
安静度をアップしながら徐々に運動療法へと繋げていきます。
運動療法の適応
- 少なくとも過去3日間で心不全の自覚症状(呼吸困難、易疲労性など)および身体所見(浮腫、肺うっ血など)の増悪がないこと
- 過度の体液貯留や脱水状態ではないこと
運動療法の禁忌
- 過去3日以内における心不全の自覚症状の増悪
- 不安定狭心症または閾値の低い心筋虚血
- 手術適応のある重症弁膜症、特に大動脈弁狭窄症
- 重度の左室流出路狭窄
- 未治療の運動誘発性重症不整脈(心室細動、持続性心室頻拍)
- 活動性の心筋炎
- 急性全身性疾患または発熱
- 運動療法が禁忌となるその他の疾患
運動療法は以上の適応、禁忌を遵守しながら主治医と相談しつつ負荷量を上げていきましょう。
回復期〜生活期の心不全リハビリテーション
回復期では急性期治療を終えて、症状が安定化していることを前提に実施する。
上記の適応、禁忌を確認しつつ、運動療法を実施して負荷量を上げていく。
運動プログラム
ウォームアップから開始し、レジスタンストレーニングと有酸素運動、クールダウンで終了するような流れの運動プログラムを立てましょう。
作業療法でも同じく、いきなり作業活動や本人の趣味活動などに入るわけではなく、畑仕事などでも、ごく軽作業のことから開始し、徐々に体を大きく動かすような作業にして、最後は片付けを行うなど工夫して取り組みが必要です。
有酸素運動

目安としてカルボーネン法・Borgスケールにおいて
軽症(NYHA分類Ⅰ〜Ⅱレベル)では負荷係数=0.4〜0.5程度
中等度から重度(NYHA分類Ⅲ〜Ⅳレベル)では負荷係数=0.3〜0.4程度
Borgスケール11〜13(自覚的運動強度:楽である〜ややきつい)程度
を目安にした運動負荷にしましょう。
カルボーネン法=((220–年齢)–安静時HR)×負荷係数k +安静時HR
頻度は週に3〜5回(重症例では3回、軽症では5回まで)
強度はVO2Maxの40〜60%のレベル、ATレベルの心拍数レベル
運動持続時間は5〜10分×1日2回程度から開始し、20〜30分×1日2回程度まで徐々に増加させる
レジスタンストレーニング

レジスタンストレーンングでは
上肢運動:1RMの30〜40% 1set10〜15回反復できる負荷量でBorg13以下
下肢運動:1RMの50〜60% 1set10〜15回反復できる負荷量でBorg13以下
程度を目安に行ってください。
頻度は週に2〜3回
強度、回数は上記のように
ゴムバンドや重錘、ダンベル、フリーウエイト、プーリー、ウエイトマシンなどで負荷をかけてOK
運動プログラム実施中の定期評価
- 体液量貯留を疑う3日間および7日間で2kg以上の体重増加はないか
- 同一運動強度での胸部自覚症状の増悪
- 同一運動強度で10bpm以上の心拍数上昇または2段階以上のBorg指数上昇
- SpO290%以下へ低下、または安静時からいつもより5%以上の低下
- 心電図上、あらたな不整脈の出現や1mm以上のST低下
これらを定期的に確認しつつ運動療法を展開できると良いでしょう
終わりに
本記事では心不全に対しての病態的な知識と、それに対してのリハビリテーションで注意する点や運動療法について記載してきました
注意する点は
- 心不全兆候を見逃さないということ
- リハビリテーションを行うにおいて、適応・禁忌を理解しておくこと
- 定期的な評価で推移を観察しておくこと
基礎的な部分でしたが、これらを最低限理解して取り組むことができれば、まずはいいのかな?と思いますので、参考にしてみてください!
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